レギュラー番組/菅原明子の「エッジトーク」

●ゲストー写真家・ノンフィクション作家・星野博美さん
≪ 今回、2週にわたってお送りするゲストは、写真家・ノンフィクション作家の星野博美...≫


今回、2週にわたってお送りするゲストは、写真家・ノンフィクション作家の星野博美さんです。星野博美さんの著書『転がる香港に草は生えない』(文春文庫)を中心にお話を伺いました。

■「香港の"混沌"に惹かれた」

「私も香港大好きなんですけど、香港はいろんな顔を持ってるので旅行者に見せない顔も多いですよね。階層社会であったり、香港の人たちは中国というのを睨みながら生きてる部分もあったりとか私たちが知らない部分、この本を読んで香港の人たちの息遣いだとか人々が持っている熱気が頭の中に入ってきたりするんですけど、香港が好きだという気持ちははじめからずっとあったんですか?」(菅原)

「はじめは、中国へ行きたかったけど、当時は今ほど中国留学が簡単ではなくて、たまたま行ってた大学で香港との交換プログラムのようなものがあり、初めは、『ま、いっか香港で』という感じだった。行って暮らしてみたらあまりにおもしろいということがわかってきて、香港の方おもしろくなってきたという感じですね。」(星野)

「住んでらっしゃった場所はけっこう危ない場所ですよね。」(菅原)

「人と話してて、『どこに住んでるの?』って質問された時に『サムスイポーに住んでいる』と答えるとシーンって言葉を失ったりしてましたね。」(星野)

「ただ、危ないというのが、銃を突きつけられて命の危機を感じるということではなくて、貧しい人が多く暮らしてる、入れ替わり立ち代りいろんな人が入ってきては出て行くという、中国から密航してきた人もそうですし、「混沌としている」というのが言葉を変えると危ないんですが、そういう"混沌"そのものに自分は惹かれてしまったので、香港のエキスが凝縮した場所みたいな感じでしたね。」(星野)

「日本の治安と比べると、治安は悪いかもしれないんですけど、自分が町の一部になっているという安心感というか、うるさくて筒抜けだっていうことは、逆をいえば、何かあっても『助けて!』と叫べば誰かが助けてくれるというような、そういうあんしん館はありましたね。」(星野)

「お互いにツーカーな部分で話しかけたり話しかけられたり、そういうのが普通にあるって街は珍しいですね。」(菅原)

「とにかく、トラブル(特に水回り)が多いマンションに住んでいたので、トラブルがあるとみんな廊下に出てきて、『お宅はどうだ?』『うちはどうだ』と話しながら仲良くなっていく。そういう不思議なきっかけで周りの人を知っていくというおもしろさがありましたね。」(星野)

■「パスポートは自分で勝ち得るもの」

「この本にはパスポート話がたくさん出てくるんですが、パスポートに対する価値観がすごい違うんですね。」(菅原)

「パスポートというのは自分で勝ち得るものだと思っているんですね。イギリスと中国の間で時代の流れの中で常に不安定な場所に置かれていた人達なんで、何か確かなものを自分の手元に欲しいと思った時に出た発想なんですね。」(星野)

■「人生ゲームのような香港の人たちの人生」

「カナダでドクターまでとったのに大学の教授のポストがなく、非常勤で。もう少し早く帰ってきてればポストがあったのに、自分だけ貧乏くじひいちゃったみたいな話があったり。エリートといわれるようなクラスの人でも人生ゲームのようですね。そういう人ってたくさんいたんですかね。」(菅原)

「たくさんいました。返還前後に不動産価格が急騰したので、ボロいアパートでもものすごい金額で売れたり、カナダから帰ってきたら、マンションなんて高くて手も出ない。本当にちょっとした選択の差で大逆転したりというようなことが、日々そこらじゅうで起きてましたね。」(星野)

「いつも自分で情報を親族一同からかき集めて、何がベストなのか真剣勝負で考える癖がいつもついてるわけですよね。」(菅原)

「家族会議でリスク分散しよう、という結論になると、『おまえはカナダへ行け』、『弟は残れ』、『おまえはどこへ行け』というように、世界中にコマを置くというような感覚で家族が全世界に分かれたりっていうような人たちもいました。」(星野)

「香港の人は、一直線に上がるという人はいなくて、ある日、全財産を失うというリスクも身近にありました。香港の人は人より一歩、二歩先に行きたいという思いが強いから、時にバクチに走ってしまう時があるんですね。そして少し無理をして、投資というよりも投機をしてしまって、財産が全部なくなってしまうというようなことが頻繁にある。」(星野)

「1980年代〜2000年代までは他へ行けば幸せになる可能性がある。村でこのまま生活してたら、牛に草をあげるか、レンガを積んで一生生きていくという将来が見えている。いちかばちか懸けてみようと考えるのは香港では普通のことなんですね」(星野)

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■星野博美(ほしの ひろみ)

1966年生まれ。国際基督教大学教養学部社会科学科卒。 OL勤務の後、写真家・橋口譲二氏のアシスタントを経て、94年に独立。96年から、返還をはさんで香港に滞在した時の経験を基に著した『転がる香港に苔は生えない』(情報センター出版局)で、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

≪10月20日(水)・10月27日(水)23:00~23:30・ラジオ日本「菅原明子の『エッジトーク』でどうぞ!≫